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第五話 《 夜逃げ 》

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第五話 《 夜逃げ 》

独立してから3年、新事業を手掛けてから1年半がたった今Aさんは生活のドン底にいました。
仕事という仕事も、ほとんどなく、アルバイトで生計をやりくりする毎日。
事業は完全に失敗に終わっていました。
消費者金融からの借入れの返済、その他生活に必要な電気、ガス、水道、それに家賃や税金までもが滞納状態にありました。
もう、これ以上どうしようもできなかったのです話の流れからすると自分の命を絶ってしまうことも考えられるのかもしれませんが、Aさんには、その方法も勇気もなかったのです。
彼にはいつか必ず、まともな人並みの生活がしたい。
という漠然とした希望しかありませんでした。

『 ……… 』

Aさんは、ほとんど思考が停止状態にありました。
形相も以前とは比較にならないほどの、やつれ顔でした。
夜な夜な部屋の片付けを始め、ゴミらしきものはすべて朝方には処分しました。
次の日も部屋を片付けました。
また次の日も…。

ある日、あまり考えもせず遠い街の不動産屋へ行き、小さなアパートを借りました。
帰宅したのは夜の10時。
そのままAさんは、片っ端から仕事に使っていた車に家の荷物を積み込んだのです。
荷物はほとんどなく車1台に入りました。
夜2時ごろには彼は、誰にも何も言わずに引越をしたのです。
どうしようもなかったのです。
新たにスタートさせるためにはこうするしかなかったのです。
Aさんは無我夢中でした。
しかし、彼もわかっていました。

( 逃げれるものじゃない。それ以前に逃げるべきじゃない。 )
( でも、まずは環境を変えなければ、俺はどうにかなってしまいそうだ。 )
( しっかりと収入を得よう。そして、すべてを元に戻そう。でもそれは、今のままではできない…。 )
( あらたな人生を始めるには、今はこれしかない…。 )

Aさんは自分に言い聞かせました。
逃げたりはしたくない、これは逃げるわけじゃない。
すべてをもとに戻すには、これしかないんだ。と…。

それから半年後、Aさんは関西にいました。
彼のもとには当然のように、キャッシング業者からの何通もの督促状やら勧告書が届いていました。

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